新開 省二(一般社団法人 日本応用老年学会 理事長)
本年4月から当学会の理事長に就任しました新開です。この場をかりてご挨拶申し上げますとともに、最近の学会活動について少し触れたいと存じます。
当学会は、高齢社会を営むために必須の学問である「老年学(ジェロントロジー)」を、商品・サービス開発、市場開拓、いきがいや社会貢献のプログラム作り、当事者主体のケア手法の確立等に役立て、高齢社会のネットワークセンターを目指し、柴田博前理事長(現会長)が15年前に設立し、今日まで育ててこられました。先生のジェロントロジーへの深い見識と、それに共感された学会員の努力によって、ジェロントロジーの社会への普及と応用がかなりすすんだように思います。
新執行部ともども力を合わせて、この動きを加速させていく所存です。まず、社会へのジェロントロジーの普及と応用を目指して進めている「ジェロントロジー検定」のさらなる進展に力を注ぎ、大会での交流会やフォローアップ研修の開催などを検討していきます。次に、学会誌についてです。ワーキンググループを立ち上げて、応用老年学会ならではの幅広い会員構成とその活動を反映できる学会誌のあり方の検討を開始しました。学会と産業界が定期的に討議を重ねる産学連携の試みも進んでいます。また、大会も会員・非会員を問わずに参加し、発表していただけるように門戸を広げ、さらに学生の方々の参加費負担を軽減しています。
コロナ禍にあって、当学会においても理事会、委員会や大会のオンライン開催が続いており、もどかしさを感じます。会員の皆さまも思うように仕事ができず苦労されているのではないでしょうか。しかし、明けない夜はないように、いつか感染は収束するでしょう。制限ある中でもやれる方法でベストを尽くし、夜明けに向けて力を蓄えましょう。皆さま、今後ともどうぞよろしくお願いします。
2021年4月吉日
資格
医師
医学博士
MPH(公衆衛生修士)
ジェロントロジー・マイスター
衛生学エキスパート
現職
女子栄養大学教授(地域保健・老年学)
公衆衛生学会、老年社会科学会、体力医学会など5つの学会の
理事を務めている
経歴
愛媛大学医学部卒業、同大学大学院修了
トロント大学留学(文部省在外研究員)
愛媛大学医学部助手、講師、助教授
東京都老人総合研究所研究室長、研究部長
東京都健康長寿医療センター研究所副所長
■本部事務局
〒101-0064
東京都千代田区神田猿楽町1-5-18
(株)社会保険出版社内
TEL:03-5283-5660 FAX:03-3292-6111
E-mail:honbu@sag-j.org
老年学(ジェロントロジー)は、人間の加齢変化や社会に内在する問題を研究し、高齢社会のあらゆる課題を解決するための新しい学問です。最近では、世代間問題の研究やその手立ても視野にいれております。
老年学は、医学・心理学・社会学・などをコアとしてあらゆる領域の成果を動員する学際的学問です。その中には応用老年学も含まれ、教育老年学や産業老年学も応用老年学の一翼を担っています。
アメリカの大学では、全体の8割を占める自立した高齢者の生きがいつくりや社会貢献に関する教育を行う大学院や学部のコースが普及しています。加齢変化を退行するプロセスとしてではなく、生涯発達として捉えようとするコンセプトがあらゆる学問領域に浸透しているのです。
一方、わが国ではこれまで、医学・看護学・福祉学が老年学教育の中心となってきました。つまり、病者・障害者・経済的弱者の問題解決のための教育に偏していたことになります。これは、欧米より遅れて高齢社会の仲間入りをしたわが国のステップとしては、やむを得なかった面もあります。
ともあれ、これが社会のさまざまな手立てや施策の確立に大きな遅れをもたらしています。高齢者市場の開拓やサービス・商品の開発にも応用老年学に関する知識不足からくる不十分さやゆがみが見られます。高齢者施設や地域の生涯学習プログラムの中にも高齢者に関する差別意識(エイジズム)が随所にみられます。
これらの高齢社会に必須の諸活動を産・官・学にとどまらず、民間団体や一個人のレベルにまで広げてきたいと考えております。そして、これらの諸活動をより正鵠を射た充実したものとするためには、「応用老年学を系統的に学び、さまざまな分野の人々が知恵と情報交換をできる場」が必要と考えられます。このような場を日本応用老年学会として創出したいというのが私たちのねらいです。
この学会は、従来の学会のように会員個々人の研究成果の発表の場とするとともに、会員の活動に必要な情報の発信と交換に重点をおき、スキルやグレードをアップさせるための系統的な研修機能も備えていきます。様々な団体資格を持つ方々の再研修や技術向上のための研修プログラムも用意していくつもりです。また、この学会の活動は国内にとどまらず、国際交流を通じて応用老年学を発展させていきたいと考えております。
産・官・学・民のあらゆる分野の方々のご参加とご協力を心からお願い申し上げます。
以上